登山やクライミングは、安全に過ごせることが一番ですが
もし同伴者が滑落やクライミング中に墜落して引き上げる事態が生じたとき
あなたは対処できる技術や必要な道具を持ち合わせていますか?
まず、イメージしてみましょう
総重量80kgの宙づりになった人をロープで引きあげられますか?
怪力の持ち主でも無理でしょう
ロープを手で握り引っ張り上げることは、強力な握力も必要であり、引き上げは容易ではありません
この記事は、
引き上げシステムの構築に二の足をふいんでいたあなたにも
スーッと頭に入るようにわかりやすく工夫して記載しました
どうやって、何を用意すればいいのかがすぐにわかります
あなたの安全の一助になれば幸いです
引き上げシステム
■メインロープ
のみ
折れかえる3本で引き上げ
■手を持ち上げる距離の3分の1ずつ上昇
■メインロープ
+ 補助ロープ
折れかえる5本で引き上げ
■手を持ち上げる距離の5分の1ずつ上昇
器材
- セルフジャミングプーリー + カラビナ①
- タイブロック + カラビナ (オーバル型)②
- 60cmスリング
- 補助ロープ 7mm 5m
- カラビナ③
- (プーリー x2)
緑色のハイライトは、3分の1から5分の1に移行するときに追加で必要
★ セルフジャミングプーリー
逆戻り防止機構つきのプーリーです
カラビナとセットで使用します
★ タイブロック
プルージックロープでも代用は可能です
タイブロックにはオーバル型のカラビナが必要です
正しいカラビナを使用しないとロックがかかりませんので注意してください
(ペツル製品情報を要確認)
プーリー
なくてもできますが、カラビナとロープの間に入れると抵抗を軽減できますので
最低1個あるとよいかもしれません
セルフジャミングプーリーは、ひもでロックを解除状態にできるエーデルリッド スポックが私の好みです
厚い手袋をしていても使いやすく、間違って触ってロック解除してしまうこともありません
ペツルのタイブロックは、小型で邪魔にならないので持っておきたいですね
オーバル型カラビナは、ブラックダイアモンドのオーバルスクリューゲートがお財布に優しくて必要十分です
引き上げる力
【理論値】 それぞれ3分の1、5分の1の力で引き上げられる
【実 際】 滑車やロープと岩がこすれる摩擦抵抗などが加わり、理論値よりも大きな力が必要です
■ 実際のイメージ
効率を70%と仮定した場合のどのくらいの力が必要でしょうか
① 重量80kg を引き上げる
効率100% (理論値) | 効率70% (実際は) | |
3分の1システム | 27kg | 約40kg |
5分の1システム | 16kg | 約23kg |
3分の1システムで80kgの人を引き上げるのは、かなり厳しいことが分かります
② 重量50kg を引き上げる
効率100% (理論値) | 効率70% (実際は) | |
3分の1システム | 17kg | 約24kg |
5分の1システム | 10kg | 約14kg |
あなたは3分の1システムで、引き上げることができそうでしょうか?
性別、自分の筋力などからイメージをしておきましょう
5分の1システムも作れたほうがよさそうですね
種類
引き上げシステムは倍率を上げるほど軽くなります
一方で、構築するシステムが複雑になります
実際に利用頻度が高く、応用しやすいものもを習得しておけば大丈夫です
- 2分の1システム
- 3分の1システム
(その応用である5分の1システム)
5分の1システムは、道具(補助ロープとカラビナ)さえあれば3分の1システムから簡単に移行できます
引き上げシステム構築の実際
それでは、実際の場面で引き上げシステムをどうやって作成してゆくのか見てみましょう
2分の1引き上げシステム
シンプルです
要救助者のところでロープがUターンしている状態を作成するだけです
要救助者のハーネスにカラビナ(+プーリー)をセットしてロープを通す
■斜面をかついで救助する場合
最も多く利用されるシチュエーションです
急斜面に滑落し自力で動けない要救助者を救助者②が背負って登るのを救助者①が引き上げるような場面で用いられます
これに3分の1システムを引き上げ側で併用すれば6分の1のシステムになります
■クライミング中の宙づりの場合
構築する(できる)ことは少ないです
理由は、次の条件をすべて満たす必要があるためです
- 救助者がもう一本長いロープを持っていること
- 救助者が二つ折りにしたロープ折れかえり部を要救助者のところに降ろせること
- 要救助者自身でそのロープをハーネスにかけることができること
3分の1引き上げシステム
クライミング中に(落ちて)自分の力で登れないクライマーの引き上げ
を想定して解説します
- セルフジャミングプーリー + カラビナ①
- タイブロック + カラビナ(オーバル型)②
- スリング60cm
- (プーリー )
- (1) 自分側ロープに流れ止め処理
-
手を放して操作ができるように準備します
- (2) 要救助者側ロープにセルフジャミングプーリーをセット
-
ロープに安全環付きカラビナでセットする
向きに注意 要救助者側を引っ張り上げる向きです
- (3) スリングで支点とセルフジャミングプーリーのカラビナをつなぐ
-
60cmスリングを二つ折りにして使用
支点からの距離を長くしすぎないこと
狭い足場の場合は、セルフビレーで自分を確保し自分の腕が届く範囲内で作業をします
- (4) セルフジャミングプーリーに過重を移す
-
自分側のロープの流れ止めを解除
ビレイディバイスからロープをリリースして要救助者側にロープを送る
(ルベルソではカラビナをリリース用ホールにかけてテンションのかかったロープを送り出せるようになっています) - (5)ビレイディバイスからロープを外す
-
荷重はセルフジャミングプーリー側に移っているので、ビレイディバイスからロープを外せる状態になっています
この形を覚える
- (1) 要救助者側ロープにタイブロックをセット
-
オーバル型環付きカラビナを用いて要救助者側にセット
向きに注意 要救助者側を引っ張り上げる向きです
- (2) 自分側ロープをタイブロックの環付きカラビナ(あれば、プーリー)に通す
5分の1引き上げシステムへの移行
3分の1システムから5分の1システムに移行するのは簡単です
- 補助ロープ 7mm 5m
- カラビナ
- (プーリー)
赤い補助ロープを3分の1システムの間に組み込むだけです
分かりやすいように並べて示しめします
3分の1システム
5分の1システム
3分の1システムから5分の1システムへ移行する手順
補助ロープをもやい結びで支点と結ぶ
支点から2-3mの距離で補助ロープにバタフライノットを作成
(セルフビレイを狭い足場で行う場合には、手の届く範囲の2倍程度の長さ)
タイブロックを通していたカラビナのメインロープを外す
その代わりに補助ロープを通す
バタフライノットに新しいカラビナつけて、メインロープを通す
まとめ
3分の1引き上げシステムの形を覚えましょう これが基本です
5分の1引き上げシステムへは、簡単に移行できます
引き上げシステムのために追加で必要となる器材
これだけそろえましょう!
- セルフジャミングプーリー
- タイブロック
- カラビナ 3個 (オーバル型はタイブロック用に最低1個)
- スリング60cm
- 補助ロープ 7mm 5m
- (プーリー あれば1個)
いかがでしょうか
この記事を読んで、引き上げシステムの構築へのとっつきにくさが解消されれば幸いです
頭の中が整理されると、シンプルな仕組みであることがわかります
クライミング中のセカンドクライマーが墜落した状況を想定して
墜落者ロープにテンションがかかった状態、狭い足場の支点で構築できるように解説してきました
ぜひ、繰り返し練習しましょう
そして、最小限の器材をもって山に行きましょう
この記事があなたの安全の一助になれば幸いです